PBコラム5 スピード感で問題解決を図りたいが~離婚調停中の不貞慰謝料について~

みなさんこんにちは。1982年生まれの弁護士です。新幹線では大体寝ています。

さて、最近ワイドショーのネタで、「別居しており離婚調停までしている男性と不倫をしたらどうなるのか」という話題がありました。

じつはこれ、国会議員でなくても実際に生じやすい紛争類型なので、ちょっとコラムとして私見を述べてみたいと思います。

1 不貞慰謝料とは?

 

そもそも不貞慰謝料とは何かを確認しますと、一言でいえば、「家庭のある男性(または女性)と肉体関係を持つことで、相手に対して与えた精神的苦痛に対する損害賠償」です。

つまり、夫婦であればお互いに「貞操義務」を負います。要するに「浮気をされず、平穏な家庭を維持する」という期待・拘束が生じています。

そしていわゆる不貞とは、配偶者以外の女性(または男性)と肉体関係を持つことで、相手方の家庭の平穏を侵害する、浮気をしている男性と共同で、被害者女性(浮気をされた妻)に対して精神的苦痛を与える不法行為を行っている、ということになるのです。

なので、不貞行為があると、だいたい、「平穏な夫婦関係を破壊された」という枕詞をつけて、300万円とか500万円とかいう慰謝料請求の事件に発展します。

2 最初から夫婦関係が破たんしていたら?

 

さて察しのいい方はお気づきかもしれません。

不貞慰謝料の発生の根拠は、「不貞によって平穏な夫婦関係を破壊したこと」「不貞が原因で、配偶者に精神的な苦痛を与えたこと」です。つまり、「不貞行為」と「夫婦関係の破壊」「精神的苦痛」の間に、原因と結果の関係がなければ、慰謝料は理論上発生しないのです。

では、たとえば既に別居しているとか、離婚同然の状態にある男性(または女性)と不倫をしてしまったら、不貞行為の責任を問われるのでしょうか?

結論は、理論上は「否」ですが、実務的には「十分可能性あり」、となります。

すなわち、既に離婚同然で夫婦関係が破たんしている人で、ただ様々な理由で離婚が成立になっていないだけ・・・というケースであれば、その配偶者にとってもすでに「平穏な夫婦関係」自体が存在しないわけですから、いまさら浮気をされた、不貞行為があったとなっても、新たに精神的苦痛が生じるとか、浮気されないような期待が生じていた、という話は出てこないわけです。

例えばですが、Aさん(男性)が女を作って家を出て行って、10年も連絡もなく家にも帰ってこない、でも本人が不在なので離婚届けが出せずにそのままになっていた。そのような中で家に置いて行かれた妻Bさん(女性)が、その後知り合った優しいCさん(男性)と恋仲になって交際を始めた・・・となっても、今になってAさんからCさんに対して「慰謝料を払え」と言ってきても、何をいまさら、という感じでしょう。

あるいは、お互いに愛情がさめているDさんEさん夫婦が、話し合って離婚の道を選ぶとなったときに、既に別居をしてお互いに新しい暮らしを始めている、離婚についても合意していて、ただ親権や財産分与といった問題が残っているために離婚協議が長引いており、調停などの手続きが続いているという理由で形式的には夫婦関係が残ってしまっている、しかしお互いに夫婦関係が破たんしているという状況に争いはない。こういったケースでも、今になって相手に新しい恋人ができたからと言って、これが原因で夫婦関係が破たんするとかいうことにはつながりませんから、不貞の慰謝料問題にはなりません。

3 本当に夫婦が「破たん」していたのか?

 

ですが、実際には、すでに破たんしていたと思っている人との不倫でも、慰謝料問題に発展することは往々にしてあります。

①夫婦が破たんしていたと聞かされていても、実は嘘のケース

 たとえば、妻子ある男性が、若い女性を口説いていくときによく出て来そうな口説き文句。「うちは夫婦冷え切ってるから、浮気しても妻は何も言わないから大丈夫」

・・・何が大丈夫なのかという感じがしますが、実際には妻も子供も待っているのを放っておいて、新しい彼女と交際をするという時、だいたい、奥さんから責められないかを心配する彼女への口説き文句としてこういうことを言います。

ですが、こんな根拠のない甘言を信じて「この人の家庭は破たんしているのね、なら体の関係を持っても法的な責任はないから大丈夫なはず」と軽率に信じても、慰謝料の責任からまぬかれるとは限りません。

全くうその説明を受けて信じ込んでいた、客観的な情報からそう信じることにやむを得ない事情があったなどというケースであれば、結果的に不貞を働いたことについて「過失がなかった」という理由で慰謝料責任が生じないケースもありますが、たとえば職場の同僚で相手に家庭があることを知っていたとか、「離婚状態だよなんていう虫のいい話を信じるのはどうか」という状況であれば、なかなか、責任をまぬかれるのは難しいでしょう。

②夫婦関係の破たんという事実自体が争われるケース

たとえば別居していても、それが夫婦関係の破たんと言えるのかどうか、争われるという場合があります。

つまり、「別居」と「夫婦関係の破たん」は、イコールではありません。様々な事情で住まいを別にしているだけのこともありますし、一方的に夫が家を出て行ったからと言って、妻にとってはこれから夫婦関係を回復させるかどうか、あるいは夫婦を維持しながら当面の生活だけを分けていくのかなど考える期間となることも当然あります。

このような場合、いまだ夫婦関係が破たんしているとまでは言えず、慰謝料が発生してしまうケースも十分にありうるところです。

4 まだ離婚になっていない男性(女性)との交際は要注意

そんなわけで、既に別居しているとか、夫婦関係がすでに冷めているから大丈夫と言われても、うかつに信じるのは危険だと言えます。

 仮に、真実としてその夫婦の関係というか愛情がさめていたとしても、戸籍の上で夫婦でいる以上は、本当に「貞操義務が消滅するほどの破たん状態だった」と言えるかどうかは、極めて微妙な場合が出て来ます。

当事務所の解決事例でも慰謝料の問題をいくつかご紹介していますが・・・たとえば1年以上別居中で離婚協議までしていた夫婦の一方と交際をしてしまったところ、「まだ離婚状態ではなかった、夫婦関係を再構築するための話し合いの途中だったのに不貞を働いた」ということを言われて、高額の慰謝料請求をされてしまった、というようなケースが存在します。(というか、頻繁に起こります)

ある事例では、結局裁判にまで発展し、交渉の成果で最終的には慰謝料の減額に成功しましたが・・・裁判になってしまうだけでも精神的にはダメージですし、気持ちのいいものではありません。

客観的には夫婦関係が破たんしていたとしても、そのことを裁判で立証するのは、思いのほか労力が必要ですし、弁護士費用も掛かってしまうので・・・ある意味、訴えられた時点で半分負け、と言えると思います。

もちろん、離婚状態であれば配偶者に対する義理立ては不要だとか、そこから先は自由恋愛という考え方も、ないではないのでしょうが、火遊びの対価としては、やや高い勉強代となってしまうリスクがあることも、また事実です。

恋愛感情が往々にして理屈を抜きにしてしまうものですが、一般論でいえば、家庭のある男性(又は女性)と交際をするのは、既に離婚同然と言われていたとしても、やや危険というべきでしょう。

その意味では、家庭のある既婚者との交際がばれるリスクは軽視できないものですので・・・できれば新幹線で寝る時くらいは、交際相手と手なんてつながずに我慢しておくべきだったかもしれません。

【このコラムは、最近ワイドショーで見たような話をもとに構成していますが、あくまでも特定の事例について評論するものではありません。ご容赦ください。】

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